その他の認知症

その他の認知症

血管性認知症 (VaD)

【図8】
ビンスワンガー型
血管性認知症の頭部MRI
ビンスワンガー型血管性認知症の頭部MRI
ビンスワンガー型血管性認知症の頭部MRI

脳血管障害により生ずる認知症の総称です。認知症の症状があり、神経症状や画像検査で脳血管障害が確認され、両者に因果関係が認められる場合に、血管性認知症と診断されます。ですので、原因となる多様な脳血管障害により、症状も経過も様々です。脳卒中を起こした人すべてに認知症が生ずるわけではありませんが、脳卒中は血管性認知症の大きな危険因子になります。また、高齢になるほど、脳血管障害により認知症を起こしやすくなることも判っています。

症状は様々ですが、特徴的な症状としては、夜中に大騒ぎするなど夜間せん妄、感情の起伏が激しくなり、泣いたり怒ったりの感情失禁、抑うつ、歩行障害や失禁が早期から現れるなどがあります。症状の現れ方も、アルツハイマー型認知症のように徐々に進行するのではなく、脳卒中などがきっかけでかなり急に発症します。症状は、脳血管障害の再発に合わせて段階的に進みます。

病理学的には、認知症を呈しやすく頻度の高いものとして、大脳皮質や皮質下白質に小梗塞が多発する「多発梗塞性認知症」や、大脳深部白質にびまん性病変を呈する「ビンスワンガー型認知症」などがあります。

これらの病理変化と対応して、頭部CTやMRIで特徴的な画像所見がみられます。「多発梗塞性認知症」では小梗塞が大脳に多発性に認められ、「ビンスワンガー型認知症」では大脳深部白質にびまん性の血流低下が認められます(図8)。より広範な血流低下の範囲をみるには、脳SPECTも有効です。

治療としては、高血圧、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病が直接的な危険因子になるため、これらの管理が予防につながります。原因となる脳梗塞の予防と再発の予防に、抗凝固薬が必要に応じて使われます。また、脳血流を改善させる脳血管拡張薬や脳代謝を改善させる脳代謝賦活薬も治療に用いられることがあります。

前頭側頭葉変性症 (FTLD)

前頭側頭葉変性症は、脳の前頭葉や側頭葉が萎縮し、それによって特徴的な精神症状や言語症状が現れる疾患です。単一疾患ではなく、原因によって幾つかに分けられますが、一般には「前頭側頭型認知症」「意味性認知症」「進行性非流暢性失語」という3つのタイプに分けられます。前頭側頭型認知症は、抑制が利かなくなり、社会のルールが守れなくなったりする性格変化が特徴的です。当初、ピック病と呼ばれていたものが代表的です。また、意味性認知症は、相手の言葉の意味が失われ、会話が成り立たなくなるのが特徴です。ともに、他人と関係なく我が道をいく行動、同じ行動を繰り返す常同行動、言葉の意味が判らなくなる語義失語などの症状がみられます。初期には記憶障害や見当識障害が目立たないため、認知症とはみなされないことがあります。

【図9】
意味性認知症の頭部MRI
意味性認知症の頭部MRI
意味性認知症の頭部MRI

病理学的には多様であり、例えば、前頭側頭型認知症のうちピック病では神経細胞内にタウ蛋白が蓄積し、意味性認知症では神経細胞内にTDP43蛋白が蓄積してきます。

頭部CTやMRIで特徴的な画像所見がみられます。前頭側頭型認知症では、両側の前頭葉や側頭葉前方部に限局性の萎縮がみられます。一方、意味性認知症では左側の側頭葉前方部に限局性の萎縮がみられます(図9)。脳SPECTやFDG PETでは、より広範に血流低下や糖代謝低下がみられます。

治療は効果的なものがなく、反社会的な行動をとらないように家族の見守りと工夫が必要になります。常同行動を利用して、都合の良い生活パターンを決めていくなどの非薬物療法が基本となります。薬物療法としては、常同行動の改善に抗うつ薬であるSSRIが効果的との報告があります。また、NMDA型グルタミン酸受容体阻害薬であるメマンチンが効果があったとの報告もあります。

正常圧水頭症 (iNPH)

【図10】
正常圧水頭症の頭部MRI
正常圧水頭症の頭部MRI
正常圧水頭症の頭部MRI

水頭症は、異常出産、くも膜下出血や脳炎などで二次的に生じることがあります。正常圧水頭症は、このようなあきらかな原因がなく生ずるものをいいます。

主要な症状は、認知機能障害、歩行障害、失禁の3つからなり、徐々に進行していきます。これらの症状は正常圧水頭症に特異的ではないため、しばしば誤診されています。脳CTやMRIで特徴的な所見を認め、脳MRIでは脳室拡大と円蓋部脳溝の狭小化を認めます(図10)。その上で、脳脊髄液によるタップテストの結果で診断されます。正常圧水頭症は、脳外科で脳室腹腔シャント術を施行することにより改善が得られるため、「治療可能な認知症」と呼ばれています。しかし、正常圧水頭症は厳密には単一疾患とはいえず、認知症と呼んでよいか疑問が残ります。実際、脳室腹腔シャント術の後も認知機能障害や歩行障害が進行するものが少なくなく、この場合はアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症が合併していることが少なくなく、正常圧水頭症の治療には脳外科と認知症専門医の協力が必要です。

その他

この他に、比較的稀な認知症疾患として進行性核上性麻痺 (PSP)や皮質基底核変性症 (CBD)などがあります。