アルツハイマー型認知症

認知症疾患

認知症の中で頻度が高く重要なのは老化に伴って生じる認知症で、老化性認知症と呼ぶことがあります。老化性認知症には複数の疾患が含まれ、その頻度は時代によっても、報告者によっても異なります。
現在、アルツハイマー型認知症が最も頻度が高く、本邦での頻度は認知症の50-55%くらいです。次に頻度が高いのがレビー小体型認知症であり、その頻度は15-20%くらいです。血管性認知症は10-15%との報告が多いのですが、純粋の血管性認知症はさらに少ない可能性があります。

この3疾患が、3大認知症と呼ばれています。前頭側頭葉変性症は、従来ピック病と呼ばれた疾患を含み、頻度は5-10%くらいとされています。また、特発性正常圧水頭症は、治療可能な認知症として他の老化性認知症との鑑別上重要です。

アルツハイマー型認知症 (AD)

同じことを何度も聞き返したり、物を置き忘れる、約束を忘れたりなど

アルツハイマー病とも呼ばれ、通常、認知症としてイメージされているのは、この疾患です。一般に、65歳未満で発症するものと、65歳以上で発症するものに分けることが多く、前者を若年性アルツハイマー病と呼ぶことがあります。頻度は65歳以上がはるかに高く、女性で多くみられます。遺伝性のアルツハイマー病もありますが、若年性アルツハイマー病に限られ、全体の1%程度に過ぎません。アルツハイマー型認知症は徐々に進行する疾患であり、発症からの生存期間は多くは7-8年くらいです。

【図1】
アルツハイマー型
認知症の頭部MRI
アルツハイマー型認知症の頭部MRI
アルツハイマー型認知症の頭部MRI

初発症状は記憶障害です。同じことを何度も聞き返したり、物を置き忘れる、約束を忘れたりします。また、家事や趣味を億劫がるアパシーも早くからみられます。年月日があいまいになる時間の見当識障害も比較的早くからみられます。やや進行すると、道に迷うなど場所の見当識障害、金銭管理ができない計算力低下、日常行為の段取りができない遂行機能障害などが見られます。この時期には怒りっぽい、もの取られ妄想などのBPSDが目立ってきます。

さらに進行すると、家族のことが判別できない人物の見当識障害、着衣、洗面、排便など身の回りも困難となります。発語も減り、会話が困難となり、やがて歩行能力も低下して寝たきりとなります。 病理学的には、脳の神経細胞が脱落し、脳の萎縮がおきます。萎縮は記憶をつかさどる海馬に始まり、側頭葉、前頭葉、頭頂葉に拡がり、記憶障害以外の認知機能も低下していきます。神経細胞が脱落する原因として、神経細胞の外側にアミロイドβ蛋白が蓄積する老人斑、神経細胞内にタウ蛋白が凝集する神経原線維変化が知られています。

【図2】
アルツハイマー型認知症の脳FDG PET
アルツハイマー型認知症の脳FDG PET

これらの病理変化と対応して、特徴的な画像所見がみられます。頭部CTやMRIでは、まず海馬を含む側頭葉内側部に萎縮がみられ(図1)、進行すると大脳全体にびまん性の萎縮がみられます。脳SPECTやFDG PETでは、後部帯状回、頭頂側頭連合野に血流低下や糖代謝低下がみられ(図2)、進行すると前頭葉から大脳全体に拡がっていきます。最近、アミロイドPETで脳内にアミロイドβ蛋白を同定し、早期診断につなげようとする試みがなされていますが、まだ研究段階で臨床の現場では使われていません。

治療としては、認知機能障害の進行を抑制する抗認知症薬が使われています。

本邦では、コリンエステラーゼ阻害薬(ChEIs)であるドネペジル、リバスチグミン、ガランタミンの3剤と、NMDA型グルタミン酸受容体阻害薬であるメマンチンが抗認知症薬として承認されています。この他、アミロイドβ蛋白の凝集を防ぐβ-およびγ-セクレターゼ阻害薬、アミロイドβ蛋白を除去するアミロイド免疫療法などが将来の根本的治療薬として研究開発されていますが、まだ実用化には至っていません。また、多様なBPSDに対しては、適宜、非定型抗精神病薬や漢方薬である抑肝酸、抗うつ薬であるSSRIやSNRIなどが使われます。

予防法といえるものはありませんが、予防に役立つ生活習慣などはわかっています。一日に30分以上のウオーキングをするなどの有酸素運動が良いとされています。認知機能の刺激となるような趣味、新聞やテレビからの情報、他人との会話や交流、規則正しい生活と適度の睡眠も大切です。過剰なストレスは好ましくないとされています。食事では、新鮮な魚に含まれているDHC、緑黄色野菜に含まれるビタミンCやE、カレーのスパイスに含まれるクルクミン、赤ワインやお茶に含まれるポリフェノールなどの抗酸化作用のある栄養素は、予防に役立つと言われています。さらに、高血圧や糖尿病、高脂血症などの生活習慣病を防ぐことも重要であり、糖尿病はアルツハイマー型認知症の危険率を上昇させることが判っています。