注意障害、構成障害、視空間障害、遂行機能障害などが早くから現れます。
1995年に提唱された比較的新しい疾患です。イメージとしては、アルツハイマー型認知症とパーキンソン病が合わさった疾患といえるかもしれません。認知機能障害に幻覚やパーキンソニズムを伴う疾患が1980年代に本邦の小阪により提唱され、レビー小体型認知症の道筋が示されました。年代としては、60歳から80歳台の初老期や老年期の発症がほとんどです。遺伝性は基本的にはありません。パーキンソニズムなど日常生活動作を低下させる症状があるため、予後はアルツハイマー型認知症より短く、発症後平均3-4年とされています。
【図3】
レビー小体型認知症の脳FDG PET
症状としては、認知機能障害が必須ですが、初期には記憶障害は軽度で、認知症のレベルは満たしません。一方、注意障害、構成障害、視空間障害、遂行機能障害などが早くから現れます。また、認知機能障害の他に、はっきりしているときとぼんやりしているときが変動する認知機能の動揺、明瞭で繰り返し現れる幻視、パーキンソニズムが特徴的です。
【図4】
レビー小体型認知症の
MIBG心筋シンチグラフィー
Early
Delayed
このうち、幻視は最も特徴的で、家の中に人や虫が入り込んでいるなどの人物幻視や小動物幻視、さらに生物以外の幻視もみられます。夕方や夜に多いとされますが、日中でもみられます。本人は幻覚の自覚が乏しいことが多いようです。幻視以外に、錯視、誤認などの精神症状がしばしばみられ、ときには自分の配偶者が似ているが他人であるという妄想(カプグラ症状)もみられます。
パーキンソニズムは初期にはほとんどみられないことが多く、動作や歩行が遅くなり、ぎこちなくなるなどがみられますが、パーキンソン病と異なり安静時の振戦はみられないとされています。さらに、これらの症状からレビー小体型認知症と診断される数年前から、前駆症状がみられることがあります。最も特徴的なものはレム睡眠行動障害であり、夜間睡眠時に大声を挙げたり、激しい体動を示したりします。また、臭いを感じにくくなる嗅覚低下も前駆症状としてみられます。
病理学的には、アルツハイマ-型認知症と同様に脳の神経細胞が脱落し、脳の萎縮がおきます。萎縮は記憶をつかさどる海馬に始まりますが、初期にはアルツハイマ-型認知症より軽度です。神経細胞が脱落する原因として、パーキンソン病と同様に、神経細胞内にα-シヌクレイン蛋白が凝集するレビー小体が知られていますが、進行すると老人斑や神経原線維変化が合併してきます。
【図5】
レビー小体型認知症の
脳DATscan
これらの病理変化と対応して、特徴的な画像所見がみられます。頭部CTやMRIでは、海馬を含む側頭葉内側部の萎縮はアルツハイマ-型認知症より軽度とされますが、進行すると区別はつきません。脳SPECTやFDG PETでは、後部帯状回、頭頂側頭連合野に加えて、視覚野を含む後頭葉に血流低下や糖代謝低下がみられ、特徴的です(図3)。この部位の血流低下や糖代謝低下は病初期からみられ、早期診断に有効です。また、MIBG心筋シンチグラフィー(図4)では、パーキンソン病と同様に、心筋への取り込み低下が病初期からみられます。脳DaTscan(図5)では、線条体の取り込み低下がパーキンソニズムの出現以前からみられ、レボドパ開始の判断に有効です。
治療としては、アルツハイマ-型認知症と同様に、認知機能障害の進行を抑制するコリンエステラーゼ阻害剤 (ChEIs)が有効であり、最近本邦ではドネペジル(アリセプト)が承認され、現在使われています。幻視の改善にもChEIsは有効とされていますが、これで改善のない場合は非定型抗精神病薬や漢方薬である抑肝酸が使われることがあります。抑うつにはSSRIやSNRIなどが使われます。パーキンソニズムには、パーキンソン病に準じてレボドパが用いられます。幻視などの症状は、患者の不安や介護者の介護負担を大きくするため、不安を軽減する精神療法が大きな意味を持ってきます。