認知症の診断法と治療法

認知症の診断

問診と精神・神経学的診察

臨床経過は、初診時に本人および家族からこれまでの経過を詳細に聞き取ることが第一です。認知症の初期であれば本人からの情報に家族の情報を加えるという形をとりますが、進行している場合は、家族からの情報が主となります。ですので、少なくとも初診時は本人の生活をよく知る家族の同伴が必要です。これらの情報から、どのような臨床症状が、どのような時期に始まり、どのように経過したかを判断します。

現症は、診察時の認知機能、精神症状、神経症状を診るもので、初診時には詳細な精神・神経学的診察が必要となります。症状に関する情報は、その後の外来通院時にも随時追加します。認知機能、精神症状、神経症状は、症状の記載のみでなく、その程度を客観的に評価するスコアをつけることも必要です。

神経心理学的検査

簡便な認知機能検査(長谷川式認知症スケール、MMSE)

長谷川式認知症スケールやMMSEは、認知症の簡便な評価に使用します。受験者に対して口頭による質問形式で行われますが、聴力が弱い方に対しては視覚教示で施行することもあります。検査にかかる時間は10分程度で、臨床心理士以外も実施することがあります。

詳細な認知機能検査(COGNISTAT, ADAS、WMS-R, WAIS-III)

臨床心理士が施行する詳細な認知機能検査です。口頭による質問形式の課題や、図形や文字を見たり描いたりする課題など、さまざまな側面から評価します。COGNISTATやADASは、長谷川式認知症スケールやMMSEに比べて、より詳細に全般的な認知機能を評価することができます。いずれも検査にかかる時間は20~30分程度です。

WMS-Rは、記憶について詳細に評価する検査で、実施には60分程度かかります。WAIS-IIIは、記憶以外の認知機能の評価に使用されます。実施にかかる時間は60-90分程度です。WMS-Rと WAIS-IIIを組み合わせると、軽度認知障害や初期の認知症の評価に特に有用です。

その他の認知機能検査(前頭葉機能検査、視覚認知検査、失語症検査など)

受験者の状態や症状に合わせて、臨床心理士が実施します。口頭による質問形式の課題や、図形や文字を描く課題など、さまざまな種類があります。

前頭葉機能検査(FABなど)は、物事を計画立てて実行する能力を評価することができます。視覚認知検査(ベンダーゲシュタルトテストなど)は、どのように見えているか、見えているものを同じように描き出すことができるか、といった側面を評価します。また、失語症検査(WAB失語症検査など)は、言葉の意味の理解や読み書きなどを評価することができます。

その他の検査

上記の検査に加えて、意欲や抑うつの程度に関する検査(バウムテスト、GDSなど)、認知症の精神症状についての検査(NPIなど)、認知症の重症度の検査(CDRなど)、日常生活動作の検査(IADLなど)を実施することもあります。これらの検査には、受験者自身に加えて、家族や介護者の方からもお話を伺うことがあります。

※太田 一実(おおた かずみ):臨床心理士
ビクトリア大学(カナダ)卒、明治学院大学大学院心理学研究科心理学専攻臨床心理学コース博士前期課程修了。2011年より順天堂東京江東高齢者医療センターにて臨床心理士として勤務。
所属学会:日本心理臨床学会、日本老年精神医学会、日本認知症学会

画像検査

頭部CT検査

X線を用いて、脳の部分的ないし全体的萎縮の程度、脳梗塞や脳出血などの血管障害の程度を把握するもので、認知症とその他の疾患のスクリーニング検査に用いられます。約10分程度で施行できます。

頭部MRI&MRA検査

頭部MRIは、磁力を用いて脳の部分的ないし全体的萎縮の程度、脳梗塞や脳出血などの血管障害の程度を評価するもので、頭部CT検査と類似していますが、認知症とその他の疾患のスクリーニング検査には頭部CT検査より詳細で有効です。頭部MRAは、脳血管の狭小化、動脈硬化、動脈瘤などの障害をみるものです。ただし、ペースメーカーなど磁力の影響を受けるものを設置している場合は使用できません。約30分程度で施行できます。

脳FDG PET検査

アイソトープ(18F-FDG)を用いて脳の糖代謝をみるもので、脳機能の低下している部位では糖代謝の低下を認めます。認知症疾患により脳内の低下部位が異なり、認知症の鑑別診断に有用です。また、早期から低下を確認できることから、認知症の早期診断にも有用です。年齢別の正常データベースと比較した3D-SSP画像により、個々の例での低下部位を視覚化することができます。

同時に内臓器のFDG PET検査も行うことができ、悪性腫瘍の早期診断に用いられます。ただし、脳FDG PET検査は保険適応がなく、実費がかります。施行には、待ち時間を含めて約1時間半程度かかります。

脳SPECT検査

アイソトープ(123I-IMPや 99mTc )を用いて脳血流をみるもので、脳機能の低下している部位では血流の低下を認めます。FDG PETと同様に、認知症疾患により脳内の低下部位が異なり、認知症の鑑別診断に有用です。

ただし、感度はFDG PETより低く、早期診断での有用性は限られています。IMP SPECTでは、3D-SSP画像を用いて、個々の例での低下部位を視覚化することができます。いずれの脳SPECT検査も、保険適応となっています。施行には、待ち時間を含めて約1時間半程度かかります。

脳DATscan検査

アイソトープ(123I-ioflupane)を用いる検査で、黒質から線条体へのドパミン線維路の障害があると、線条体での取り込みが低下します。パーキンソニズムを呈するパーキンソン病やレビー小体型認知症の鑑別に有効です。

パーキンソニズムの明らかでないレビー小体型認知症の早期でも異常がみられることがあります。最近、保険適応となっています。待ち時間を含めて約3時間程度かかります。

MIBG心筋シンチグラフィー

アイソトープ(123I-MIBG)を用いる検査で、心臓交感神経の障害があると、心筋での取り込みが低下します。自律神経症状を呈するパーキンソン病やレビー小体型認知症の鑑別に有効です。パーキンソニズムや自律神経症状のみられないレビー小体型認知症の早期でも異常がみられます。保険適応となっています。待ち時間を含めて約3時間程度かかります。

認知症の治療

薬物療法

認知症の中核症状(認知機能障害)に対する薬物療法と周辺症状(BPSD)に対する薬物療法に分けられます。

認知機能障害に対して

現在、アルツハイマー型認知症の認知機能障害に対する薬物療法(抗認知症薬)として、本邦で4剤が承認されています。アルツハイマー型認知症では脳内アセチルコリンの低下が認知機能障害と関連しており、シナプス間隙のアセチルコリン濃度を上昇させるコリンエステラーゼ阻害薬 (ChEIs)として、ドネペジル (アリセプトなど)、ガランタミン(レミニール)、リバスチグミン(イクセロンパッチ、リバスタッチパッチ)の3剤があります。

ドネペジルは軽度から高度のアルツハイマー型認知症が対象で、一日一回朝食後に内服します。ガランタミンは軽度から中等度のアルツハイマー型認知症が対象で、一日二回朝夕食後に内服します。リバスチグミンは軽度から中等度のアルツハイマー型認知症が対象で、一日一回貼リ替える貼布剤です。3剤は薬理学的な構造の違いから、認知機能障害以外のBPSDや日常生活動作の改善効果に違いがあります。また、個人の感受性によっても違いがあります。

また、ChEIs以外に、過剰なグルタミン酸の神経毒性を抑制することを目的にして、グルタミン酸NMDA受容体阻害薬であるメマンチン(メマリー)が、中等度から高度のアルツハイマー型認知症を対象にして承認されています。初期のアルツハイマー型認知症に対してChEIsを開始し、進行とともにメマンチンを加えるという方法がしばしば行われています。

最近、レビー小体型認知症の認知機能障害に対する薬物療法して、ドネペジル (アリセプト)が承認されました。また、最近の趨勢として、軽度認知障害の時点で、認知症への進行を遅らせることを期待してChEIsを用いるようになっています。

BPSDに対して

BPSDに対しては、環境調整や対応の工夫などの非薬物療法がまず行われますが、これで改善のない場合は薬物療法が用いられます。

薬物療法は、対象となる症状によって異なる薬剤が用いられます。興奮、幻覚や妄想などの介護者にとって負担の大きい症状には、チアプリドがしばしば用いられ、改善がなければクエチアピン、リスペリドンなどの非定型抗精神病薬が用いられます。ただし、保険適応がないため、副作用に注意しながら用いる必要があります。衝動性が強い場合は、バルプロ酸などの抗てんかん薬を用いることがあります。

不安や抑うつに対しては、SSRIやSNRIなどの新しい抗うつ薬が用いられます。不眠に対しては、鎮静やフラツキの少ない非ベンゾジアゼピン系睡眠導入薬であるゾビクロンやゾニサミドを用いることがあります。レビー小体型認知症のレム睡眠行動障害に対しては、ベンゾジアゼピン抗てんかん薬であるクロチアゼパムが用いられます。また、抑うつと紛らわしいアパシーには、抗うつ薬は効果がなく、ChEsが効果的とされています。

レビー小体型認知症のパーキンソニズムに対しては、レボドパなどのパーキンソン病に準じた薬物療法が行われます。

非薬物療法

精神療法

患者への支持的精神療法が主体であり、本人の不安を軽減させることにより、安心して生活ができるように援助します。軽度認知障害や初期の認知症の患者には、疾患の特徴や症状を判りやすく説明し、今後も現在の生活を維持できるように協力していきましょうと話すことで、かなり不安がとれるものです。

それに加えて、日常生活上の種々のアドバイスを行います。適度の運動、周囲の出来事に関心を失わず、趣味があるならがそれを続けること、他人との交流をはかることなどを勧めています。高度の認知症の患者では、たとえ会話が成立せず、日常行為が困難となっても、あきらめずに患者との交流をはかるように介護者に勧めることが主体となります。

家族療法

介護者に疾患の特徴や症状を判りやすく説明し、患者への対応について適切な助言をすることで、介護者の安心をはかることが第一です。これは初診時のみならず、再来時にも絶えず行う必要があります。介護者が介護負担から不安や抑うつなどを呈する場合は、必要なら介護者自身の治療を行うこともあります。